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高松高等裁判所 昭和26年(ネ)199号 判決 1952年1月22日

高知県幡多郡清水町清水四百三十番地

控訴人

岡田佐之助

右訴訟代理人弁護士

中平博

高知県幡多郡中村町

被控訴人

中村税務署長

橋本寛利

右訴訟代理人

是沢伝

右同

土井照則

右同

水地厳

右同

高橋信一

右当事者間の昭和二六年(ネ)第一九九号行政処分取消請求控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す被控訴人が昭和二十三年三月二十日附で控訴人の昭和二十二年度所得金額を金四万円、昭和二十四年二日二十五日附で昭和二十三年度所得金額を金十万円と更正した処分並びに昭和二十二年度随時所得税額を金千九百弐円五拾銭とした決定を取消す訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は控訴代理人において控訴人は昭和二十二年度の所得税額更正決定に対する審査請求は同年十二月中に昭和二十三年度の所得税額更正決定に対する審査請求は同年十月六日になしたものである尚被控訴人が審査請求周知につきその主張の如き諸種の手段を講じていたことは認めると述べ被控訴代理人等において控訴人が飲食店営業をなしていること及び控訴人主張のように所得金額の更正並びに所得税額の決定のあつたことはこれを認むもその他は否認する。右昭和二十二年度の更正処分は昭和二十三年三月二十日控訴人にこれが通知を発したから遅くとも同年三月二十三日頃には控訴人に到達しており昭和二十三年度のそれは昭和二十四年二月二十五日控訴人にこれが通知を発してから遅くとも同年二月二十八日頃には控訴人に到達しておる。

被控訴人は更正決定通知書欄外に更正決定に不服の者は通知受領の日より一ケ月以内に審査請求をされたき旨の注意書を記載し又庁内に審査請求の方法、様式等につき掲示し更に右決定通知後一ケ月間庁内に税務相談所を設置し審査請求に関する諸種の相談に応じているなど審査請求に関し一般納税者にその周知方を講じていると述べた外いずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

証拠として控訴代理人は甲第一乃至第三号証、甲第四第五号証の各一、二、同第六号証の一乃至一〇、同第七、第八号証を提出し、原審証人岡田鶴江の証言並びに原審における控訴本人(原告第一、二回)を援用し乙第一号証、同第八号証の五、同第十六号証の一、三の各成立をみとめ爾余の乙号各証は不知と述べ被控訴代理人等は乙第二乃至第七号証、同第八号証の一乃至五、同第九乃至第十四号証、同第十五号証の一乃至四、同第十六号証の一乃至三同第十七号証の一、二を提出し原審証人鎌田伊勢男及び同第十七号証の一、二を提出し原審証人楠木一男の各証言を援用し甲第一乃至第三号証、同第六号証の一、同第七第八号証の各成立を認め爾余の甲号各証は不知と述べた。

理由

先づ本訴の適否について判断するに、所得税法第四十九条同法施行規則第四十七条によれば政府の通知した所得金額、所得税額更正の処分に不服があるものはその処分にかかる通知を受けた日より一ケ月以内に政令の定むるところにより不服の事由を記載した書面をもつて当該処分をなした税務署長を経由して昭和二十二年度分は納税地の所轄財務局長に、昭和二十三年度分は所轄国税局長に審査の請求をなすことができると規定されている。そして行政事件訴訟特例法第二条によれば行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴はその処分に対し法令の規定による訴願、審査の請求、異議の申立、その他行政庁に対する不服の申立のできる場合にはこれに対する裁決、決定その他の処分を経た後でなければこれを提起することはできないのである。

然るに成立に争のない乙第一号証並びに原審証人楠木一男及び同鎌田伊勢男の各証言を綜合すれば控訴人は被控訴人から遅くも昭和二十三年三月末日頃迄には昭和二十二年度所得金額、所得税額更正の通知をうけ昭和二十四年三月上旬頃迄には昭和二十三年度のそれ等の更正の通知をうけていること、その後控訴人はその更正の処分に対し口頭或いは書面で被控訴人に対し異議の申立をしていること、しかしその書面による異議申立はその内容が所謂陳情的な文書であるのみならずその名宛人は直接被控訴人に対するものであつて財務局長或は国税局長に対する書面でなかつたこと、しかもそれは昭和二十四年四月十八日以後において被控訴人に提出されたものであることが認められ右認定に抵触する原審における控訴本人(原告第一、二回)の供述は右各証拠に対比して措信し難く控訴人提出援用にかかる爾余の証拠によるも右認定を覆すに足らない(その他本件に顕われたすべての証拠によるも控訴人から適法な審査の請求のあつたことを認めることはできない)。

然らば控訴人は被控訴人の処分に対し法定の一ケ月内に適法な審査の請求をしていないものと謂はなければならない。

控訴代理人は控訴人は盲目のため被控訴人の処分を十分に了知しなかつたものであると主張するけれども斯る事由は再審査の請求をしなかつたことにつき正当の事由があることを認めるには足りない。

されば本訴は被控訴人の抗弁するが如く不適法として却下を免れない。

よつて原判決を正当として民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 前田寛 判事 近藤健蔵 判事 萩原敏一)

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